▲９六歩の是非について

これまでにも数回、現代矢倉は穴熊に組み替えるのが現代の主流になっていることを述べてきた。図はあくまでバランス重視とでも言おうか、▲９六歩と突いた局面である。

バランス面からも突きたい歩。だがこれが芳しくないことは私も知っている。

▲９六歩。玉の懐を広げ、ぜひとも指しておきたい一手なのでが、この瞬間、すぐに△９五歩がある。私自身も何度も指され、嫌な思いをした経験のある手である。この△９五歩のところおとなしく△４二銀と固めるのは直ちに▲２五桂とされて後手拙い。以下△４五歩なら▲同銀△１九角成▲４六角△同馬▲同歩（５３手目図）。こうなっては△５九角にも▲４四銀の筋があり、先手成功である。

後手失敗。無策に固めていては拙い。 

従って△９五歩は絶対手に近いともいえるが、以下▲９五同歩△同香に先ずは▲９七歩と受ける変化から。▲９七歩に△４二銀として５０手目図。

今度は後手も歩の持ち駒があるため違う。

９筋で１歩を手にしての△４二銀。これに対し前記事でも出てきた▲２五歩のような手なら△１三銀▲６五歩（次に▲６六銀～▲７五歩の狙い）△４五歩▲同桂△４四歩▲３五歩△４五歩▲同銀△１九角成▲４六角△２九馬（６２手目図）が進展の一例。

後手も強く応戦。

以下は戦い方の参考。△２九馬に対して▲６八飛と逃げるのは△９二飛▲５七角△３五歩（６６手目図）となってやはり先手自信のない形勢。

駒の効率は後手のほうがよい。

上図が駄目だからだと▲８二角成と取り合うのも△３八馬▲１五歩△同歩▲９一飛△４九馬▲１五香△１四歩▲８一飛成△３八飛（７２手目図）となって、難しいながらも先手としては望む変化ではないだろう。

手順中、△４九馬が急所の活用。

△４二銀と引いた手に対しては▲２五歩よりも▲２五桂（５１手目図）が本筋だろう。

やはり２五には桂を進めたい。

▲２五桂に後手も黙っていては攻められる（▲５五歩△同歩▲１五歩△同歩▲３五歩以下）。そこで何か動くわけだが、△３三桂（これまでにも出てきた筋）とするのは▲５五歩△同歩▲３五歩△同歩▲１五歩△同歩▲９六歩△同香▲同香△９五歩▲同香△同角▲１二歩△同香▲３五銀△同銀▲１三歩（６９手目図）と進めて先手が指せる。

細かく手を繋ぐ。△９五歩までも逆用。これは先手よし。

▲２五桂に対しては△４五歩と突く方が勝る。対して▲同銀は△２五銀▲同歩△５三桂（５６手目図）とされて拙い。後手の角筋が強力で先手も攻めを続けるのは困難。

この形での▲４五同銀はない。

そこで△４五歩に対しては▲３七銀と引くことになるが、後手はそこで△３三桂とぶつける。以下▲同桂成△同銀上▲２五桂△同銀▲同歩△９四桂（６０手目図）と進んだ局面は後手のほうが模様がよさそうである。

後手に楽しみの多い局面。

ここまで見てきたとおり、▲９六歩と突く手は後手の先攻を許して面白くない展開となるわけだが、△９五同香（４８手目図）と走ってきた手に対してシンプルに▲同香と取る変化も見てみよう。

普通はここまで見てきた▲９七歩だが、シンプルに取る手もないわけではない。

▲９五同香には当然△同角だが、それに対し▲２五歩△１三銀▲２九香と進めるのは△９六歩▲３五歩△８三香（５６手目図）で後手も指せそうである。

▲３四歩には△７五歩▲同歩△６四銀。

やはりここでも２五には桂を進めたい。△９五同角以下▲１五歩△同歩▲３五歩△同歩▲２五桂と進んで５５手目図。

攻め合いに。

やはり１筋・３筋（状況に応じ５筋）の突き捨てと▲２五桂の組み合わせが形だろう。先手は次の▲３五銀が楽しみだが、香が捌けている後手の形も軽い。以下は実戦例（島-羽生両先生）を追う。５５手目図以下△３四香▲３七香△３六歩▲同香△同香▲同飛△３四歩▲３八飛△９六歩▲３五歩△８三香▲３四歩△２五銀▲同歩△９四桂と進んで７０手目図。

これも先手が望んだ結果ではないだろう。

▲９六歩は指したい手なのだが、直後に△９五歩の先攻を許す結果となり、そしていずれも先手としては芳しくない進行を辿った。仕掛けを与えるくらいなら、▲９六歩は突かないほうがいいという考え方を更に押し進めた結果がこれまでにも述べてきた▲９八香なのだろう。

 

参考文献；将棋世界誌２０１０年１１月号