▲5八飛を振り返る⑧ [矢倉▲3七銀]
9四歩型における△5一飛~△5四歩の決戦策へ。矢倉3七銀戦法5八飛型における先手と後手、各々が最善を求め辿り着いた結末をここに見る。
8五歩型では△5五同飛の変化を簡単に切り捨てたが・・・
現在は指されていないが、凄まじい変化が歴史に刻まれている。
57手目図は前の記事;後手8五歩型と同じように進み▲5五同銀と取った局面。それに対し前記事では△同飛▲同飛△同角(60手目図)はない(▲3一銀から角を抜かれる)としていた。
実は違う理由でこの△5五同飛の変化はなくなった。
だが今回は状況が違う。図で▲3一銀なら△同金▲5二飛△3二金▲5五飛成に△2九飛、または△5四歩▲6五龍△6九銀(68手目図)で後手も戦える、というのである。
これは後手も戦える。
8五型と違い、歩が8四に控えているため、▲5四歩に対し▲8五龍とまわれないのが大きい。こうなってはまずいと先手も改良を加える。△5五同角の局面で▲3一銀ではなく▲1五香(61手目図)と走るのである。
何とも若々しいというか、勇気の要る手。
5五の角がよく利いていることもあり先手も忙しい。▲1五香という手も決断の一手と思う。以下△同銀▲2五桂△3七角成と進んで64手目図。
先手の次の一手が急所。
▲1五香対して1筋ががら空きになるので△1五同香とは取りにくい、というのがプロの見解のようだ。64手目まで進んだ第一号局(?)は▲1三歩△2四歩▲4一飛△2六馬と進んでいるが、現在はこの形での結論らしきものが出ている。
64手目図以下▲4一飛△2六馬▲1二歩△同香▲1三角成(69手目図)がその手順。
▲1三角成!鮮烈そのもの。
▲1三歩が甘い手で、単に▲4一飛が勝る。この第一号局(?)は1998年の川上-森内両先生による将棋。このあたりの状況を森内先生自身も著書で述べておられ、その内容も興味深い。後手は早く2五の桂を取り除きたいところだが、△2六馬のところ△2四歩は▲1六歩または▲8一飛成(いずれも△2五歩と取ると玉頭が空く)で依然先手がいいようだ。
そして図の▲1三角成。何という手であろうか。これぞ鬼手というに相応しい。図以下△同桂は▲1一銀までなので△同香と取るが、▲1一銀△同玉(△1二玉は▲4三飛成)▲1三桂成△1二銀(飛)▲1四香で、途中他にも変化はあるが先手勝ち。
この▲1三角成までの手順が確立され、△5五同飛以下飛交換する順は消滅し、後手は必然的に△5五同角(58手目図)を選択することになる。
後手最後の手段、△5五同角。8五歩型でもこちらが勝った。
いよいよ最後の変化に入る。これで有力な対策がなければ矢倉3七銀戦法における▲5八飛は決定打となるところ。図以下▲4六銀△5四歩▲5五銀△同歩▲2八飛△1六歩と進んで64手目図。
8五歩型とほぼ同じ進行。
1筋の突き捨ては難しいところで、こうなるのなら突き捨てを入れないほうがいいのではないかとも思われるが、前述の△5五同飛の変化が生ずる可能性を考えると、やはり省略は出来ない。また、64手目図に至るまでに1筋の突き捨てが入っていなければ図の△1六歩の代わりに△5六銀▲同金△同歩▲2四角△同歩▲2五歩△同歩(68手目図)といった進行が考えられるが、これはこれで後手十分とされている。
1筋の突き捨てが無ければ無いで後手指せる展開。
64手目図の△1六歩までで後手指しやすい、というのが現時点における5八飛型の結論のようである。以下は▲6二角△5四飛▲7一角成△9三桂▲6二馬△1七歩成▲2九飛△1八歩が一例。
先手自信なしだが・・・
先手自信なしとは言っても微差ではないだろうかとも思うが、この微差で結論が出てしまうくらいにプロの見解は高度であり妥協の無いものだということだろう。結論とは逆に、図以下▲6三馬△1九歩成▲同飛△2八銀▲5四馬△同金▲5一飛△4三銀▲5三歩△4二角▲9一飛成△8五桂▲2五香(図略)以下先手が勝った棋譜をはじめ、さまざまな試行錯誤の棋譜が残っており、この指し方はまたいつか復活するのではないかと見ている。
(参考文献1)
将棋世界誌2010年10月号
(参考文献2)
(参考文献3)
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