▲5八飛を振り返る③ [矢倉▲3七銀]
先回は後手が5筋の交換を許し、更に守勢にまわる指し方を中心に見てきた。決定的に後手が悪くなるとも思えないが、終始主導権は先手側にあり、好んで後手側を持ちたいという考え方は少数派であろう。そうでなければ現在でも3七銀戦法の主流はこの▲5八飛であり続けているはずだ。
ここまで観てきた限りの変化では先手のほうが模様がよく、後手の苦労は絶えなかったと思われる。後手の工夫は実戦例だけでも調べ上げれば大変な量になると推測される。一例としてやや形は異なる(後に合流する)が平成6年に行なわれた第7期竜王戦第6局(羽生‐佐藤康両先生)で後手の佐藤先生は△6四歩(44手目図)と工夫。
新手。銀の退路を作りつつ、△6五歩の攻めを見ている。
△6四歩以下▲5四歩△同銀▲9六歩△2二玉▲5五歩△6三銀▲3八飛△8四角▲2五桂△6五歩(54手目図)と進行。
今改めてこの図を見ると、△6四歩はなかなかの手であるように思う。
△6四歩の工夫により△5四歩も打たずに済んでいる。図の△6五歩で後手先攻に成功、以下大激戦が展開された。勝負は先手が勝ったものの、それはあくまで結果であり、途中の変化で後手勝ちの順もあっただけにこの△6四歩は非常に有力な対抗策だったと今でも思う。
だが、この△6四歩はあまり見かけない。更に強力な対抗策が出現したからだろう。5筋交換に対する△5二飛(下図)がそれである。
後手の最強手段か。ここからがまた膨大な変化。
尚、いずれ述べることになるのではないかと思うが、この△5二飛の変化も後手は△8五歩よりも△9四歩の方がよいようだ。先ずは図以下の変化を追う。
△5二飛に対しては▲4六銀と引くのが普通だが、▲5四歩(47手目図)も指してみたい手ではある。
目につく手だが△5四同金でうまくいかない。
▲5四歩に対しては△同金が正解。ここ△5四同銀と取ってしまうと以下▲同銀△同金に▲4一銀が簡単に実現してしまう。47手目図以下△5四同金▲同銀△同銀▲2四角△同歩▲4一銀△5一飛▲5二金△4一飛▲5四飛(▲4一同金は△4三銀打;58手目図)△4三銀▲5三飛成△5二銀▲同龍△4二金打▲7二龍△3七角成と進んで64手目図。
飛を取るのはしっかり受けられ芳しくない。△4三銀打が好手。
龍を作られたものの、角成の味がよい。後手うまく受けている。
64手目△3七角成まで進んで見ると後手の模様がいい。歩切れの先手側に見える攻め筋といえば▲5二銀くらいだが、△3一飛▲4三銀打に△7三馬(68手目図)と引かれると先手の攻めは成功しているとは言えない。
後手受け切りか。
△5二飛とまわられた局面で▲5四歩と攻めるのは正確に受けられると失敗する。尚、△5四同金に▲4六角と出るのは△5五金▲同角△6九銀▲4四角△3三銀▲5三角成△5八銀不成▲5二馬△6七銀成▲同金△5八飛(60手目図)でやはり駄目。
この変化も駄目。▲5四歩は自滅行為。
ここまで観てきたとおり、△5二飛に対し▲5四歩ではうまくいかない。そこで先手は上述の▲4六銀を選ぶわけだが、この手で▲5九飛も考えられる。対して△5八歩なら強く▲同飛と取り、△6四銀には▲5六歩△5五銀▲同歩△6九銀▲5九飛△7八銀成▲同玉(57手目図)と戦って、金をはがされているものの歩得が大きく、先手が指せるようだ。
これは先手指せるとされている。
ただ、▲5九飛には△5八歩ではなく△5一飛と応じられるとこの交換の損得が微妙とのことであまり指されなくなったようだ。そこで上述の「普通に指されている」▲4六銀(下図)の変化に進む。
以上の背景により、△5二飛にはこの▲4六銀が最も多く指されているようだ。
長くなるので一旦ここまで。詳細は次回記事にて。
(参考文献①)
将棋世界誌2010年9月号
(参考文献②)
(参考文献③)
康光流現代矢倉〈1〉先手3七銀戦法 (パーフェクトシリーズ)
- 作者: 佐藤 康光
- 出版社/メーカー: 日本将棋連盟
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
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