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▲5八飛を振り返る① [矢倉▲3七銀]

最近見かけなくなったが、矢倉3七銀隆盛の時期、▲5八飛と回る指し方が随分指されたのを私も知っている。今回は▲5八飛の狙いと、嘗て指された後手の直接反発の変化を見る。

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嘗てよく指された▲5八飛。

▲5八飛の狙いは明快。表面的には5筋の歩交換を狙いつつ、それを防いで△6四銀と上がってくる手には▲3八飛△5三銀▲1八香(45手目図)。

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これまで見てきた変化に比して△8五歩の一手が入っていない。

見ての通り、▲3八飛の一手を得している。これが▲5八飛の狙いだが、さすがに後手もそれを許さない対策を打つ。△4五歩(42手目図)の反発。今回はこれを見ていく。尚、△7三角の一手を△8五歩に費やした局面はまた異なる変化となる為、後述する。

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先回、最強手段とした△4五歩の反発。この形ではどうか。

先回と違い、▲2五桂の一手が入っていない状態での△4五歩。従ってここでは▲4五同桂と取る手がある(というよりもこの一手)。以下△4四銀▲1八飛と進んで45手目図。

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ここで強攻に出るか、一旦△8五歩か。

▲1八飛と香に紐をつけた手に対し、後手には△4五銀以下強攻する手と△8五歩と溜める手が考えられる。

まずは△4五銀から。以下▲同銀△3三桂打▲4六歩△4五桂▲同歩△3七角成▲4四銀と進んで53手目図。

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攻め合いに。それにしても▲4四銀とは俗手もいいところ。

△4五銀から△3三桂打が後手の狙い。先手は▲4六歩と繋ぐくらいだが、銀を取り返し角を成るまでは後手の一連の狙い筋だろう。だが一息ついたところで先手も反撃。しかし▲4四銀とはイモ筋というか、俗手もいいところ。だが、これで難しいのだから将棋は奥が深い。▲4四銀に例えば△4二金引なら▲3五歩(△同歩には▲3四桂)が煩い。

▲4四銀以下△3六馬▲4三銀成△同金▲4四金と進んで57手目図。

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またもやイモ筋、▲4四金!

▲4四銀を直接咎めることはできないようだ。▲4三銀成と後手陣を薄く出来たのは大戦果だろう。そして更に▲4四金!これでうまくいくのか、と不安になるほどのイモ筋の連発である。▲4四金以下△4二歩▲5五歩△同歩▲4三金△同歩▲5四歩と進んで63手目図。

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こうなれば先手よし。

イモ筋第2弾;▲4四金に△4二金引としたいが、それには▲4六桂が絶好打となる。▲5四歩と垂らした局面は先手がいいだろう。以下△4二金のような受けには▲5三金(!)のイモ筋第3弾が用意されている。

▲1八飛に対する△4五銀以下の強攻はうまくいかなかった。そこで後手は4五桂の凝り型に満足し(?)△8五歩と一旦溜める。これに対し先手は▲6五歩(47手目図)と突く。

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▲6五歩。後手が動かぬならと次の動きを見せる。

▲6五歩は形こそ違え、現在も指されている手段。▲5七角から▲6六角まで進められれば模様がよい。後手もゆっくりしてはいられない。△4五銀以下の強攻はどうか。以下▲同銀△3三桂打▲4六歩△4五桂▲同歩△3七角成▲4四銀と進み、先程同様△3六馬とするのは▲4三銀成△同金▲4四金△4二歩に今度は▲5七角(61手目図)と更に味よく応じられる。

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この変化は△8五歩よりも▲6五歩の価値が高い。

先程同様に進めてしまっては後手がよくなる要素がないばかりか、▲5五歩に代えて▲6五歩の一手を活かした▲5七角で更に先手がよい。手順中、△3六馬が疑問。ここは▲6五歩を咎めるべく△7三桂(56手目図)が本手だろう。

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▲6五歩を咎める△7三桂。

△7三桂と跳ねられては、▲5七角とは上がりにくい。△7三桂以下▲3五歩△同銀▲同銀△同歩▲同角△5三銀(62手目図)と進んだ局面は形勢互角と見られている。

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形勢互角、一局の将棋か。

▲6五歩に対し、△4五銀の決戦策も有力であることがわかったが、単に△6四歩(48手目図)と突き返す手も指されている。

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▲6五歩に対する直接的反発。

この△6四歩に▲同歩と取るのは以下△同角▲6五歩△4二角▲5七角△7三桂(54手目図)となり、先手芳しくない。

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後手の駒の配置がよい。

54手目図は先手の次の一手が難しい。▲6六銀には△8六歩▲同歩△同角、▲6六角には△6五桂がある。どこがまずかったかというと、素直に▲6四同歩と応じた手が問題で、▲6六銀(49手目図)が本手。

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素直に▲6四同歩は拙い。

▲6六銀以下△6二飛▲6四歩△同飛▲6五歩△6一飛▲9六歩△9四歩▲7七角(57手目図)と先手は角の配置換えに成功。

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敵玉を睨む位置に角を移動。

実戦は57手目図以下△8四角▲3五歩△同歩▲5五歩△7三桂▲5四歩△5二歩(64手目図)と進んでいる。

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これは先手不満のない進行か。

手順中、▲5五歩に△同歩は▲同銀左で勢いがつく。また、▲5四歩に△同金は3四が空くのと、▲5三歩や▲5八飛等の手が残るので指しにくい。従って△5二歩の辛抱となったが、こうなっては難しいながらも先手としても不満はない、と見られている。

下図は▲5八飛と回った局面。これまでと違い、後手は△7三角の一手の代わりに△8五歩と伸ばしている。ここでも△4五歩と突けば何ら変わらないようだが、意外にも異なる展開となる。

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実戦例が多いのは、これまで見てきた7三角‐8四歩型のほう。

図の▲5八飛に△4五歩。以下▲同桂△4四銀▲5九飛と進んで45手目図。

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6四角型の場合はこれが(も)ある。

最終手▲5九飛。これが6四角型に着目した一手。勿論▲1八飛もあるところで、それは上述の変化に合流することとなろう。▲5九飛以下△4五銀▲同銀△3三桂(打もほぼ同じ)▲2五歩△同銀▲2九飛と進んで51手目図。

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8四歩‐7三角型ではなぜこの変化ではないのか?

△3三桂(打も同様)に対し▲2五歩が新しい手。ただ、この▲2五歩という手は形は異なるが加藤流の記事でも出てきた手だ。▲2九飛となって△4五桂には▲2五飛が生じている。ならばと2五で得た歩で△4四歩と銀を殺す手が第一感。だが△4四歩以下▲6五銀△4五歩▲6四銀△同歩▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲4六歩(61手目図)と進んで先手よし。

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1筋の味付けがなんとも難しいところ。

61手目図は次の▲4五歩~▲4四歩が厳しい手となっている。これは先手よし。当然に見える△4四歩でよくならないのでは後手苦しいと見るべきか。△4四歩では△2六桂と粘る手もみえる。しかし△2六桂以下▲6五銀△3七角成▲5四銀左△4五桂▲4三銀成△同金▲4六角△同馬▲同歩(61手目図)と進んで、やはり先手よし。

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これも先手よし。▲4三銀成は既に終盤を意味しているか?

6四角型には▲6五銀が有効となるのが7三角型との大きな違い。ここまで見てきたように、6四角型の方が先手の対応が明快であり、難しい変化を含んだ7三角型の方が実戦例が多いというのもわかるような気がする。

最後に実戦例を。1996年の羽生-村山両先生による、棋聖戦より。

下図は▲6五歩に対し単に△8四角と出、▲6六銀△7三桂と進んだ局面である。

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このように溜められた場合はどう応じるのか?

さすがに最高峰同士の将棋とあって図の局面は難しい場面。ここから先手の羽生先生は▲2八飛と指し、以下△6四歩▲同歩△6二飛▲2五歩△1三銀▲7七角△6四飛▲3五歩と進んで61手目図。

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▲2八飛、▲7七角・▲3五歩それぞれのタイミングが素晴らしい。

▲3五歩となってうまく戦機をとらえた感じ。以下△6五桂▲6八角△3五歩▲1五歩△同歩▲3三歩△同桂▲同桂成△同金直▲1五香△1四歩▲3四歩△同金直▲2六桂(75手目図)と進行。

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攻めを繋ぐ。

厳しい攻めが続く。実戦は図以下△2五金▲1四桂△3三玉▲2五飛以下先手が勝っている。

▲5八飛の瞬間に△4五歩と反発した今回の流れは先手にうまく立ち回られており、後手がうまく行っているとは言えない。ということであれば先手の▲5八飛は▲3八飛よりも有効であるか、ということになるが、そう決めつけるのはまだ早い。

 

(参考文献①)

将棋世界誌2010年8月号

(参考文献②)

羽生善治の戦いの絶対感覚 (最強将棋塾)

羽生善治の戦いの絶対感覚 (最強将棋塾)

  • 作者: 羽生 善治
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 単行本

 


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