4六銀~3七桂型;基本の攻めに対する後手最強の受け [矢倉▲3七銀]
前の記事では4六銀~3七桂型の基本となる攻め筋を確認した。正直、私もあそこまで深く突っ込んだ変化に触れたのは初めてであった。というのも、既に述べたとおり、▲2五桂では▲9八香と上がる手が現在では主流であるようだし、他にも▲5七角や▲6五歩のような手が指されるのを見たこともあり、この▲2五桂自体を見る機会が少ないからである。
それもそのはず、この▲2五桂は、これから見る後手の応手により無理筋とされているからである。先回は▲2五桂に対し△9五歩と待機した為、▲5五歩以下先手の攻めが決まった。
△9五歩が緩手だったのである。△4五歩(図)。森内先生による、後手最強の応手である。
後手から開戦。一気に戦いに。
△4五歩に対して▲3七銀と穏やかに引く手もある。しかしそれは以下△4四銀▲4六歩△同歩▲4八飛△4五銀▲4六銀に△3六銀(下図)とかわされ、うまくいかない。
これは先手失敗か。
となると△4五銀には▲同銀しかない。以下△1九角成▲4六角△同馬▲同歩△5九角(52手目図)まで一気に進むこととなる。
激しい。ここからがまた難解。
△5九角まで一気に進み、先手も忙しい。△2六角成から△4四歩と銀を殺されては終わりなので▲5五歩(下図)と動いてみる。この▲5五歩では▲3七角と合わせる手もあるので後述する。
先手も激しく動く。
▲5五歩には一見、△同歩と取りたくなるところだが、それは▲5四歩△同銀▲同銀△同金に▲4八銀(下図)となって、これは先手よし。
先手よし。△5五同歩はない。
▲7一角の筋があるため、以外にも先手の銀は簡単に死なない。59手目図となって角が死んだ。以下△2七銀はあるが、▲5九銀△3八銀不成▲4一角で先手よし。また、▲5四歩に△6二銀と頑張る手は▲5二角△2六角成▲3四銀△5四金(△4二金引には▲6一角成)▲4一角成でやはり先手が僅かながら指せそうである。というわけで△5五同歩と面倒を見るのはよくない。そこで▲5五歩に対しては構わず△2六角成とし、以下▲5四歩△同銀▲同銀△同金▲4五銀△5三歩と進んで60手目図。
後手、正しい応接。
4五の銀を殺すことは出来ないが、▲5五歩には△2六角成が正しい応手とされている。銀交換後の▲4五銀に対する△5三歩も肝要なところで、△4五同金と取ってしまっては▲4五同歩で次の▲5五角が残るし、△6四金とかわすのも▲6五歩△同金▲6六金という勝負手を与える。
△5三歩と受けられた局面、先手側にはいろいろな手が見えるところだが、▲2七歩(61手目図)が気づきにくい一手。
あちこちで駒が当たりに。後手も迷うところか。
▲2七歩の局面、あちこちで駒が当たりになっており、後手も迷うところ。正しく応接しなければ劣勢となる。まず、△2五馬と桂を取るのも一見自然に映るが、▲5四銀△同歩▲7一角△7二飛▲5三角成(67手目図)となり、後手まずい。
△2五馬は自然に見えてまずい。
図の▲5三角成がなかなかの手。じっと馬を作り、次の▲2六歩の馬殺しを見ている。これは後手面白くないか。尚、この▲5三角成のところいきなり▲2六歩と突き、△7一飛▲2五歩△3三銀▲3五歩という直線的な指し方でも先手よさそうだ。
△2五馬では後手よくならない。そこで▲2七歩には△同馬と応じることとなる。以下▲5八飛△4三銀▲7一角△7二飛▲5三角成△同金▲同飛成△2六馬▲5一龍△7一飛と進んで72手目図。
難解ながら後手よしとされている図。
結論から言うと▲2七歩には△同馬が正解。手順中、先手は▲5四銀と取らず、後手も△6九銀を打たないなど、なかなか崇高な定跡である。特に△6九銀は落とし穴で、以下▲5四銀△5八銀不成▲5五角△1二玉▲6八金引(69手目図)という順で、先手も指せる流れに陥る。
巧妙なわたり合い。
そして△2六馬。大駒のフル活用は参考にしたい。尚、この△2六馬で△5二銀と引いて受けるのは以下▲5五龍△1八馬▲5四歩△5一香(74手目図)といった流れで優劣不明か。
優劣不明か。
というわけで、結論は△7一飛(72手目図)までの手順が最善で、後手よしとされている。
以上より、△5九角の打ち込みに対し▲5五歩と動くのは、よさそうな変化もあるのだが後手に正しく応接されるとうまくいかなかった。では、▲3七角(図)と受けるのはどうか。
第2の手段、▲3七角。こちらも難解。
▲3七角には△同角成の一手。以下▲3七同飛△1九角と進んで56手目図。
1七香型なら△5九角もあるところ。
目まぐるしく角を打ち合う。最後の△1九角のところ△5九角も見えるが、それは▲2七飛△4八角成▲6五歩△3八馬に▲1七飛(61手目図)と逃げて先手よし。
有名な変化。
この△5九角は、1七香型なら成立する。1七に香がいるため61手目図の▲1七飛では▲5七飛と逃げるしかなく、以下△7三桂▲6六角△1二玉▲1五歩△6五桂と進んで66手目図。
1七香型が廃れた直接の原因ともなった図だろうか。
先手の飛が1筋の攻めに参加出来ないため、後手も強く攻め合う。図以下▲1四歩なら強く△5七桂成と取り、▲1三歩成△同桂▲同香成△同銀▲5七金△2四銀(74手目図)が一例で、以下▲1四歩には△4四歩、▲4四桂には△3一金でやはり先手うまくいかない。
先手息切れ。この攻め合いは後手よし。
この攻め合いが無理なので、図に至る手順中、△7三桂に対し▲6六角ではなく▲6六金と受ける手も考えられるが、以下△4八馬▲6七飛△2六馬▲7五歩△2五銀▲7四歩△7二歩(70手目図)でやはり先手よくならない。
△5九角成功。▲7三歩成は△同歩で△4四歩が生じる。
56手目、△1九角の局面に戻る。△1九角に▲4七飛は△2八角成があるので▲3八飛。△4六角成で4筋の歩が切れた瞬間に▲4四歩(59手目図)。
先手の銀は簡単には死なない。
▲4四歩と打たれ、先手の攻めが繋がっているようにも見える。後手も悩ましい。△4四同銀か、△4四同金か、それとも△4五馬か・・・
まず、△4四同銀は▲同銀△同金▲7一角△4二飛▲5三角成△4三金引▲6三馬(67手目図)でいい勝負とされている。
後手選択しにくい順。
67手目図となって一息ついた感じ。8一の桂取りになってはいるが、後手はその間に自玉周辺に手をかけることとなろう。図以下△3七銀▲3九飛△2六銀成▲4四歩△同金▲5三銀△4三飛▲6二馬△4五金▲5二銀不成△4二飛▲2六馬△5二飛▲4一銀(81手目図)が変化の一例。
意外なところでの銀の取り合い。難しい形勢。
81手目図となり先手歩切れとはいえ、玉も薄く、これは後手として選択したい変化ではないだろう。
では、△4四同金はどうか。以下▲7一角△4三金引▲8二角成△同馬▲1五歩△同歩▲同香△同香▲4四歩(69手目図)と進んで互角の戦い。
互角とされている局面。
△4四同銀、△4四同金ともに難解ながら互角。では△4五馬はどうか。
△4五馬以下▲4三歩成△同金▲4八飛△4六歩▲1九角△6四歩▲4六角△4四歩▲6五歩と進んで69手目図。
△4五馬が最有力と見られている。
意外にも△4五馬と根元の銀を外すのが最有力と見られている応手。対する先手も▲1九角、と一見細そうな手を放ち、角筋を生かした攻めに切り替える。尚、手順中、▲4六角のところ▲4六飛も有力。以下△同馬▲同角△4八飛▲3七角打△1八飛成▲6四角△7三香(74手目図)が一例で、直線的な攻めでは届かない。
角を取らずに単に受けるのが好手。
角を繋いで攻めるのは取らずに△7三香が好手で届かない。手順中、▲3七角打のところ▲5七角と引いた実戦もある。以下△1八飛成▲6三角△3五歩(74手目図)と進んだ実戦もある。
これは難しいか?
▲5七角は後手を引いて香損のようだが、直後の▲6三角が次の▲2四角から▲4一角成を見てなかなかの手。そこで実戦は△3五歩と受けているが、後手も気持ち悪いところはあるだろう(形勢自体、後手よしとは思うが)。
尚、69手目図の▲6五歩で一旦▲1九角と引き、△3六馬に▲6五歩とした実戦もある。以下△2六馬▲6八飛△6二飛▲6四歩△同銀▲6三歩△同飛▲6五歩△7三銀▲6四金△同銀▲同角(83手目図)△9三飛▲8二角成△2五銀▲9三馬△同香▲8二飛と行った進展か。これも優劣不明だろうか。
後手の入玉を防げるだろうか・・・
69手目図▲6五歩の局面は名人戦の大舞台でも出現している。第期名人戦(平成10年;谷川‐佐藤康両先生)では▲6五歩以下△3六馬▲3七歩△2六馬▲3六金(73手目図)と進んだが、この先手の手順が疑問だった。
▲3七歩~▲3六金が疑問だったらしい。▲3七歩のところ▲3三歩の修正案が指されている。
再び戻って69手目図▲6五歩以下△3六馬▲3三歩△同桂▲6四歩△3七銀▲2四角△同歩▲6三歩成△4二銀▲6八飛△3五角と進んで80手目図。
先手不利とされている図。
これが最新の結論(先手不利)とされている図であろうか。後手も一歩間違うとたちまち不利になってしまうという際どい変化でここまで辿り着いた。尚、最終手△3五角のところ△2五歩と桂を取る手が自然に見えるが、それは▲5七金△4五桂▲2四銀(83手目図)と進んで飛を活用した先手がやや指せる形勢となった、という実戦例があって侮れない。
飛の活用が脅威。
また、▲6三歩成に強く△4八銀不成と飛を取る変化も気になるところで、ここからが凄い。対する先手は▲5三とではなく、▲3一銀△同玉▲5三とと寄せを目指した手順で迫る。
終盤ならではの鬼気迫る手順。
▲3一銀が凡人には浮かばない強烈な一手。単に▲5三とと取ってしまっては△同金で火種が消えるということか。81手目図以下△5三同金には▲3三桂成△4一玉▲6五桂が厳しい。
しかし▲5三とに△8三飛打(82手目図)が驚嘆の受け。
もうついて行けない。
先の▲3一銀を「凡人には浮かばない」と表現したが、この△8三飛打に至っては黙ってひれ伏して鑑賞するくらいしかない。▲4三とには△同飛▲2三金△2五歩、▲3三桂成には△同金▲4二銀△2二玉で耐えるというのであるが、ここまでして頑張るというのなら▲6三歩成に対しては、やはり△4二銀を選びたいというのが個人的な所感ではある。
尚、81手目図の△3五角は▲5七金も消して先手の飛の活用を防いでもいる。
(参考文献①)
将棋世界2010年7月号
(参考文献②)
(参考文献③)
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