矢倉3七銀戦法;主流の周辺⑤ [矢倉▲3七銀]
先回は△5三銀に対し▲1七香の変化を調べた。後手が悠長な応対をすると端攻めを見て主導権を握りにいく指し方だったが、▲1七香に△7三角以下応じられると端攻めの狙いが間に合わず、かつ第2の選択▲4六銀以下の戦いも将来△2五桂と跳ねた手が1七の香に当たり芳しくない結論に終わった。
そこで改良策として▲1八香(図)を見ていく。
端攻めは諦めるが△2五桂のときに香当たりにならない。
ここで後手はどう応じるかも岐路。▲1七香同様、△7三角か、それとも他の手か・・・
先ずは▲1七香のときと同様、△7三角から。
△7三角以下▲3八飛△2四銀▲4六銀△4五歩▲3七銀△4四銀▲4八飛△3三桂▲9六歩△5二飛▲4六歩△同歩▲同角△5五歩▲2五歩△同桂▲4五歩△3三銀▲5五歩と進んで59手目図。
▲5五歩が新しい。
先回の▲1七香のときと同様に進む。途中、▲9六歩と△5二飛の交換はしておきたい。そして▲5五歩とここで手が変わり、▲1八香の効果が現れる。
以下△4四歩▲同歩△同銀▲2六銀と進んで63手目図。
▲1八香の効果。香が1七だと△1七桂成▲同桂△4五香で悪くなるところ。
何度も書いたが、△2五同桂のとき、桂の利きに香がいないのが大きい。以下△5五銀▲同角△同飛(△同角は▲4一銀)▲5六歩△5一飛▲2五銀△同銀▲5五桂△4二歩▲4三桂成△同歩▲4四歩△同歩▲同飛と進んで77手目図。
こうなれば先手よし。
ここまで進めば次に▲4二金、▲7四飛、▲1七桂など指したい手がたくさんあり、先手よしである。
尚、△5五銀のところ△4五歩▲2八角△5五銀には▲5三歩△同飛▲2五銀△同銀▲6五桂(71手目図)のような反撃がある。
変化の一例。▲9六歩と△5二飛の交換を入れた効果がここでも現れる。
以上のように、▲1八香に対し、後手が▲1七香のときと同様に△7三角以下応じるのはよくない。そこで後手は▲1八香には△9五歩(図)と待機する。
△9五歩。単なる手待ちの様だが実はそうではない。
同じ角筋を避けた意味でも▲1八香の場合は先回の端攻めの味がない。そこで後手も△7三角を急がず△9五歩と突き越す。同じ手待ちの要素が強いが△9五歩の狙いは手順が示す。
以下▲3八飛△2四銀▲4六銀△4二銀と進んで44手目図。
後手専守専制の構え。
後手は△4二銀とさらに玉周辺に集めて専守専制の構え。以下▲3七桂△7三桂2▲五桂と進めて47手目図。
次に先手からは▲5五歩△同歩▲3五歩の攻めがある。
先手の攻撃態勢が整った。黙っていては▲5五歩同歩▲3五歩の攻めを浴びてしまいまずい。
そこで後手は動く。考えられる手は△3三桂(下図)と△4五歩(後述)。
桂交換から△9四桂が後手(△9五歩)の狙い。
単純に▲3三同桂成△同銀上▲2五桂と攻め続ける指し方も嘗てはあったが、現在は指されていない様だ。直後の△9四桂が厳しい。この△9四桂が△9五歩の狙いである。そこで△3三桂には▲3五歩と突き、以下△2五桂▲6五歩(53手目図)と進める。
ここで後手は△6五同桂か、△5三角か。
▲6五歩を△同桂と取るのは、以下▲6六銀△8六歩に強く▲6五銀と取り、△8七歩成▲同金△8六歩▲7七金左(61手目図)と応じて先手よし。
際どいが先手耐えている。
△6五同桂ではうまくいかないので後手は▲6五歩に対し△5三角とおとなしく引く。以下▲2五歩△同銀▲3五銀△8六歩▲同歩△6五桂▲2四歩△同歩▲2三歩△3一玉▲4六角△6四歩▲2四銀△3七歩▲2八飛△2六歩▲3三歩成△同銀▲3五桂と進んで73手目図。
激しい順に。先手ややよしか?
一気に進めたが、なんとも難解な順である。さすがに研究された順だけあって、後手も要所に駒が配置されており少なくとも一方的ではない。だが、図まで進んでみると次に▲4三桂成△同金▲3三銀成△同金▲7三銀の攻めを見て先手ややよしのようだ。
というわけで(かどうかは知らないが)、△3三桂に代えて△4五歩(下図)と突く手が指されるようになった。
第2の手段。▲3七銀には△3三桂▲4六歩△2五銀▲同歩△8六桂の強襲。
△4五歩以下▲同銀△2五銀▲同歩△5三桂と進んで52手目図。
後手、銀を殺す。5四、3四どちらに捨てるのが正解か。
図となって、先手の銀は死んでいる。攻めが続かなければ先手失敗。5四、3四どちらに切り込むか。また、ここで▲4六歩も考えられるが、△4五桂▲同歩に△4七銀くらいで先手悪いだろう。
やはり切り込むしかない。先ずは▲5四銀(図)から。
嘗ては指されていた順。
▲5四銀以下、△同金▲5五銀△同金▲同歩△4五桂▲5四金△6九銀と進んで60手目図)。
先手不利。
▲5四銀は5三の桂頭も狙って第一感という手でもあるが、△4五桂と軽く跳ねられ△6九銀まで進んでみると先手の攻めがどうも方向違いのようである。そこで△5三桂に対し先手は▲3四銀と切り込むことになるが、その前に単に▲7五歩(下図)も考えられる。
このタイミングでの▲7五歩ではよくならない。
結論から言うと、ここでの▲7五歩は無理。▲7五歩以下△8六歩▲同銀△4五桂▲7四歩△8五桂▲7三銀△3七桂成▲3九飛△4八成桂▲2九飛△5八成桂(64手目図)まで進んで先手不利。後手の飛角がそれぞれ紐付きなのも大きい。
5三に打った桂が成り込んで5八まで。後手の駒の効率がよい。
△5三桂に対する本題の▲3四銀(下図)に入る。
後手玉に迫る▲3四銀。これが本命か。
▲3四銀以下△同金▲7五歩と進んで55手目図。
▲3四銀△同金としてからの▲7五歩。難解。
先程の、△5三桂に対する▲7五歩はうまくいかなかったが、▲3四銀△同金として後手の金を露出させ、かつ5三桂の目標をなくしてからの▲7五歩。これが本筋か。これに対しては△2七銀(下図)が有力か。
先手の飛角を押さえ込みにかかる。
△2七銀以下▲3九飛△2八角成▲3五歩と進んで59手目図。
先手はぎりぎりで手を繋ぐ。
△2七銀以下後手は先手の飛を押さえにかかるが先手もぎりぎりのタイミングで▲3五歩を利かす。対して△4四金なら▲7四歩△3九馬▲7三歩成(63手目図)と勝負する。
▲3四桂もあり後手としても厄介な順か。
△4四金は守備駒を温存し、かつ飛鳥の先手を残して有力手に見えるが先手の絡みつきも意外に厄介である。そこで後手は▲3五歩に対して△4四金とは逃げずに△3九馬と飛を取る。以下▲3四歩△3八飛▲7四歩△6五桂右▲同歩△同桂▲7三歩成△8一飛▲4四桂が一例か。
こうなれば先手ややよし、とは言われているようだが・・・
図まで進んで▲4四桂が入り先手ややよしといわれているようだが、あくまでプロの見解であり、アマ同士の戦いでははたして、という局面ではある。ただ、後手には歩の持ち駒しかなく、この局面であれば△7七桂成にも▲同角と取る筋が厳しい等、先手によい条件が揃っているのかもしれない。
ここから(?)は変化を。図は▲3四銀△同金▲7五歩に△2七銀ではなく△8六歩と突いた局面。
玉頭からの攻め合い。
△8六歩は攻め合いを目指した手だが、以下▲8六同銀△8五銀▲3五歩△4四金▲2四歩△同歩▲2五歩(下図)と進んでみると先手よしか。
玉頭にアヤをつけることが出来るのが大きい。
▲2四歩から▲2五歩。駒がぶつかりまくっているこの状況によってはなかなか指せない手であり、是非とも参考にしたいところだ。
最後に、▲3四銀△同金▲7五歩に△同角と取った将棋が名人戦で現れた。△7五同角以下は▲4六角△6四銀▲7二歩△4五金▲1九角△3三銀▲3五歩△3六歩▲5二銀(65手目図)と進んでいる。
名人戦で現れた変化。
▲1九角では▲6八角も有力。また、△3三銀では△4三銀も有力だったようだ。
以上、▲1八香と上がる変化を見てきたが、専門的には形を早く決めすぎる嫌いがあるようだ。そこで次回は最後の候補手、▲3八飛を調べる。
(参考文献;将棋世界2010年2月号)
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